枕上心覚

不器用なわたしのための忘備録

バケモンにはバケモンをぶつけんだよ!がミーム化した件_映画『貞子vs伽椰子』

映画『貞子 vs 伽椰子』をやっとみました。

sadakovskayako.jp

結論から申し上げますと、ポップコーンとコーラでも用意して、肩の力を抜いてご覧いただきたいおすすめの映画です。友達同士でのお泊り会や合宿などワイワイ上映会をすると盛り上がること間違いなしの楽しいB級ホラー映画でした。

 

B級ホラー映画はお好きですか?

 おススメな理由は、期待を裏切らない前評判通りの尊さであります。

観ていただければわかりますが、懐かしい平成B級ホラーのエッセンス特盛にほのかな百合風味を添えた怪獣プロレスなので、IQががくんと下がる感覚を存分に楽しめ、観終わった後に絶対誰かと語り合いたくなるネタ要素がふんだんに盛り込んであったからです。

公開当時、SNS上でもキャラ同時のプロモーションの応酬がかわいらしく、話題になっていたので気にはなっていたんです。でも心身ともに疲労していた私は、いつの間にかすっかり忘れていました。B級ホラーの楽しみ方を。

 

陳腐化した呪怨シリーズとリングシリーズ

今では世界中で知らぬものはいないほど有名になってしまった、テレビから出てくる黒髪と白ワンピースの女性_山村貞子さん。

千里眼をもつ母と謎の博士の娘で、自身も強力な超能力者で、自身のコピーを世界中にばら撒き全世界で有名になることを夢見る女優志望の半陰陽、今でいうインターセクター女性の怨霊です。念を込めて作成した”呪いのビデオ”を見た者が他の人にビデオを見せてくれることでチェーンメール式に遺伝情報を広範囲にばら撒く呪いを得意とします。

原作は鈴木光司の小説「リング」「らせん」「ループ」の三作品*1でしたが、貞子の人気が高まるとテレビドラマ版や「リング0」「リング2」「貞子3D」 と原作とは違う世界線でのシリーズ化が続き、ハリウッド版ザ・リングではサマラという謎の少女の設定で舞台をシアトルに移してリメイクされました。

対する佐伯伽椰子さんは、白塗りに血まみれの白いノースリーブワンピースを纏い、全身真っ白なブリーフ姿の息子、俊雄くんと二人暮らしですが、家に踏み込む者を呪い追いかけるためには四足歩行の独特の歩き方でどんな狭い場所へも追いかけます。

ビデオシリーズから口コミで火が付き劇場版シリーズが作成され、ハリウッド版リメイクでは日本ロケも行われた地域密着型の子連れ主婦で、ミチミチに書き込まれた日記に独特のイラストを描き込み、一度家に入った人は国境を越えても追いかけていく、バイタリティ溢れる怨霊主婦です。嫌味なモラハラ夫もフライパン一発でぶっ殺してくれる頼もしい憑依も見せてくれ、多種多様な呪いのレパートリーを作品ごとに増やしていきました。

出産まじかの妊婦から産まれてきたり、広場一杯に増殖したりして、もうこれ以上ないくらいハチャメチャに笑っていいのか怖がっていいのか、何なのかわからない勢いのB級ホラーノリをやってくれました。

これほど有名になってしまった幽霊お二方なので、もう観ていなくっても観た気になってしまうほど、知らぬものはいないという手垢のついたホラーヒロインの二大スターとなってしまったのです。

今や、100年以上不動の地位だったお岩さんやお菊さんを押しのけ、世界に誇る日本ホラーヒロインの代表です。

ハリウッドリメイクの呪いを解け

ハリウッド版ではわかりやすさを求められるせいか、東アジアとは違う気候のせいなのか物理攻撃の強さを見せつけられるような、正直、なんか違うんだよなぁという感じがぬぐえませんでした。文化的背景により”嫌な予感”が迫ってくる怖さの表現が違ってくるのはわかるんですが、ただのモンスターやデーモンとしてリメイクするなら確かにテレビから出てくるけれど、サマラちゃんについてもうちょっと魅力的に描いてもよかったんじゃないの?みたいな。ハリウッド版ゴジラ*2をみた後にも似た感触、確かにスケールというかお金はかかってるんだろうけど、エルム街の悪夢のフレディや13日の金曜日のジェイソンに感じる魅力っていうのを感じなかったんですよね。そっちの感じでやって欲しかった惜しさみたいな、もどかしさが残りました。

サマラ元々邪悪な倒すべきモンスターなんだぜ!

日本の古い家に白塗りの子供のデーモンがいたら奇妙だけど怖いかもだぜ!

撮影中のスポンサーたちの要求は、清水監督が引くほど霊を出しまくるものだったという。

*3

みたいなのって、違うんだよ。違うんだよおお!

もっとこう、キャラの理解?もっと距離感の近い存在じゃない?私たちの延長線にいてくれる情念の塊のような、怖いんだけどストレス溜まった時に街を破壊してくれる怪獣映画を観てスカッとするような気持ちが貞子と伽椰子の人気を支えてきたんじゃないの?と思っていたのです。ただのモンスターやゴーストではない、始球式までやってしまうほどの人気キャラクターなんですから。*4

どうしてこんなに人気なのか

歌舞伎で人気幽霊ヒロインである四谷怪談のお岩さんや播州皿屋敷のお菊さんと違うのは、呪いの対象が自分を殺めた恨みの対象とは全く無関係な人々にまで及ぶ不条理さと、ばかばかしいとも思える都市伝説の拡散と増幅力によって、世界をも滅亡させかねない圧倒的パワーを持っていることです。

貞子さんも伽椰子さんも、社会のひずみの中で無力なまま理不尽な暴力によって非業の死を迎え、恨みを肥大化し拡散させる怨霊です。彼女たちは、どうにもならない、どうにもできない矮小な存在であった生前の無力感、諦め、悔しさ、ささやかな夢を打ち砕かれた絶望を抱えているのです。そこは私たちと同じ人間らしさだったのです。

私たちはこの社会の一員として生きている限り「この恨み晴らさでおくものか」と、憎いアイツも強欲なアイツも呪い殺したり首をねじ切ったりすることかないません。そんな私たちの情念を代わりに背負って引き受けて大暴れしてくれる。そんな黒々と情念をとぐろを巻いた黒髪に巻き付かせた彼女たちを、私たちは怖いながらも、身近に感じ、心のどこかで応援し、好きになってしまうのではないでしょうか?

取り戻した不条理ホラー

さて、『貞子vs伽椰子』の話に戻ります。

映画開始後初めての犠牲者が映し出されたのち、5分で可愛い女子大生が二人くっついて居眠りしている。何やらこの二人はとっても仲良しらしい。いやに仲良しでベタベタ付き合ってる。これはこういう(所謂百合もの)の好きな人にとってはたまらないシーンじゃないですか?

そして流行りの都市伝説が語られます。呪いのビデオと入ると死ぬ家についての解説です。これでこの映画の中の街にはリングシリーズの”呪いのビデオ”と、呪怨シリーズの”入ると死ぬ家”の噂もあることがわかります。初見さんにもわかる親切な解説付きです。

引っ越してきた家の近くに不気味な空き家があることに気付くかわいい女子高生も登場します。こちらは平凡な仲良し家族のようです。かわいい子は振り返ってもおびえてもかわいい。

意味なんていらんのです。ホラーに登場するかわいい子はかわいいと恐怖に叫ぶ姿を見せるために存在するので、意味なんて求めてはいけない。しかし、ヒロインの一人は結構図太くタフな神経を持っていることが伺えます。この子は長生きしそう。

ホラー映画で真っ先に死ぬ奴って誰か知ってます?

シャワーを浴びる金髪美女?隠れてセックスするカップル?それはハリウッドのお約束。

ジャパニーズホラーでは、呪いやタタリを恐れず土足で踏み込むいじめっ子と、いちいち細かい屁理屈を言い出す奴です。映画の進行上邪魔ですからね。

はい、いじめっ子のクソガキ登場!定石通り!いやー気持ちいい!

呪怨シリーズでクソムカつく嫌なやつから死んでいくお約束です。これこれ、これですよ。

呪いのビデオを見てしまった仲良し女子大生二人組は、都市伝説を研究している教授の紹介で、胡散臭げな霊能者の元へ助けを求めるのですが、数々の能力者を死に追いやった貞子さんがそんな簡単に除霊されるわけもなく、除霊の儀式をしていた霊能者たちはそうはならんやろっ!という死に方をしてしまいます。(死に方が呪怨っぽいです。その他、「リング」の設定とは微妙に異なる呪いのルールがある)

そして、自信満々の助っ人霊媒師・経蔵と赤いコートの少女珠緒のコンビの登場で、いよいよ二つの呪いが出会います。そこであの名台詞!

「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ!」

呪いのビデオを入ると死ぬ家で再生し、お互いの呪いの時間をぶつけ相殺し、両方の呪いを封印するという途方もない計画を立てます。何故自信満々なのか、よほど強い除霊屋さんなんでしょうか?もっと強い怨霊とも戦ったのでしょうか?

そしてお待ちかね、二つの呪いの出会いで異種格闘技の始まりです。

こんなの「よっ!待ってました!」とつい声かけたくなっちゃうじゃないですか。

これでええんや。これで。

 

今日も彼女たち不条理な日本が生んだネットミーム怨霊は、社会に押しつぶされた私たちの情念を抱えたまま、不条理な世界を滅ぼしてくれるのです。

観終わった後は、聖飢魔Ⅱのロックな主題曲に乗ってスキップしながら暗闇や物陰に彼らの気配を思い出し、日常に戻っていける。そんな気持ちの良いほど不条理なホラー映画でした。


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*1:外伝「バースデイ」もあるがリング0として映画化

*2:エメリッヒ版Godzillahttps://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=GODZILLA&oldid=82572792

*3: https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=THE_JUON/%E5%91%AA%E6%80%A8&oldid=80221679

*4:貞子vs伽椰子が恐怖の始球式 動画 https://youtu.be/xgu1nMuG_sE